法人経営において、人事担当者には常に人材育成の課題がつきまとっています。これは中小企業や大企業という枠組みを超えた共通項です。
「従業員の自己学習の機会を増やし、いかにして自発性を高めるか?」というのは人事育成を成功させる重要なポイントです。しかし、従業員が嫌々参加している研修プログラムには大きな効果はありません。今回は、従業員に自発的な読書習慣を根付かせた人材育成方法を紹介したいと思います。
目次
ある会社の読書による人材育成施策
ある会社の研修事例です。人事部は従業員への知識増大、学習習慣の定着を目的とし、読書に関した人材育成施策を行っていました。
しかし、それは管理職が選んだ専門書籍を特定の従業員に読ませて、感想文を書かせるタイプのものであり、従業員の間には不満が蓄積。自発性を促すどころか、罰ゲームの様相でした。
あるとき、従業員とよくコミュ二ケーションをして、その読書の施策はいくつかの方針で改善することに成功しました。
不評だった最初の読書研修プログラム
読書研修の目的は、ビジネス書や専門書の読書によって学習意欲をアップさせた人材育成をすることでした。目的は正しかったのですが、方法に問題があったようで、従業員のモチベーションが下がり、研修は形骸化しました。
この読書プログラムの問題点
この読書プログラムにはいくつかの問題がありました。
まず、管理職が書籍の選択をするというのは、一歩間違うと偏った押しつけになります。実際に時代や現場に合わない古いトレンドの書籍を選んでしまうこともありました。
また、業績の悪い従業員を研修対象とする行為自体も嫌味であり、かつ、週末という労働時間外に読書させるのも残業的に問題があります。
これらのことは特に若い従業員世代からはことのほか不評で、人材育成どころか、会社への忠誠心を下げるのに充分なものでした。
管理者が読書感想文の評価をするというのも正しさの指標はなく、単なる自分の思想や力関係のおしつけになりがちです。管理職が読解力に人並み以上に優れているならまだしもそういうことではありません。結果的に従業員のモチベーションはあがりませんし、形だけの感想文を書き、かつ不満が蓄積されていました。
改善された読書プログラム「書評システム」
評判が悪いことに気が付いた人事担当者は古い制度を廃止し、「書評システム」という新しいプログラム方法をつくりました。まず会議室と休憩所に少しおしゃれなオーク材の本棚を設置し、そこに置くビジネス書籍は従業員が毎週1人1冊持ってくるようにしたのです。
その書籍購入費用は会社が一定額まで経費負担しますし、業務中にAmazonで購入することも認められていました。従業員は各自選んだ書籍持参し、本棚では誰が持参した書籍なのかわかるようにラベル分類されます。書籍リストと書評はDB化され、それら識別情報は誰でも閲覧できるようにグループウェアで共有化されました。
自分の名前で書籍をおくため、従業員は見栄も手伝い、知的でセンスの良いビジネス書籍をこぞって選ぶことになります。さらにかっこよい書評を書くために、懸命に読み込み読書時間を作り出すという結果を導きました。また、短い文章欄で書評や要約を表現するということは表現技法やセールスの練習にもなります。
それら本棚の書籍は貸し出しも可能で、貸し出しされた書籍は月間ランキングが貼られ、書籍オーナー従業員には少額ながら報奨金がでる仕組みになっているのです。
追加された研修「社内読書会」
「書評システム」にて従業員の読書習慣と学習意欲がアップされた後に、人事部はコミニュケーションスキルや社内交流を活性化せるために追加のプログラムを設定しました。
月間ランキングの上位の書籍が指定されて、社内読書会は月2回程度開催されます。時間帯は業務終了の1時間前に開催され、読書会終了後は各自飲み会にいったり、退社したりできます。
この日はノー残業デーに設定されました。
他部署も交えて社内交流し、お互いのことを知るということは業務円滑化とパフォーマンスアップのために有用なことです。
社外へのアウトプット「ブログに感想をアップする」
「書評システム」によって読書習慣を高め、「社内読書会」にて感想による社内交流を活性化させたあと、さらにそれをアップグレードする更なる研修が考えられました。
それは「会社ブログへの感想アップ」でした。
社内読書会だと優秀だと選ばれた感想文は会社の公式サイトにあるブログコーナーに投稿記事としてアップされることにしたのです。これには3つの目的があります。
- 「読書会の感想発表にプレミア価値を持たせること」、
- 「サイトにアップするということで緊張感を持った文章執筆の練習になること」
- 「ブログを活用した企業の知的イメージアップ」
です。これらのことによって、社内の読書研修プログラムは従業員の自己啓発だけではなく、社外へのPRや公式サイトの活性化、SEO貢献へも活用できたのです。
人材育成が社内に効果を発揮するとともに、外部へも情報発信に繋がっていく、これは大きな相乗効果となり、予想外の成果を生み出したと言えます。